夏想い。 |
著:桜 卯月 |
書棚に仕舞われている本や巻物の類は無造作に並べられ、床には積み重ねられて出来た本のタワーが幾つもある。 久々に晴れた休日、イルカは好い加減雑然としてきた書庫を片付けていた。 紙を傷めない為に日があまり射し込まない、薄暗くひんやりとした部屋で彼は汗を流して忙しなく動いている。 「あ゛っ・・・」 書棚の中でも本は積み重ねられており、場所を移動させようとした1冊を引き抜いた時に事は起こった。 「これ・・・こんな所にあったんだな・・・」 両親が亡くなって慌ただしかった頃に今回のように見付けたそのアルバム。 |
両親の休みが珍しく連休となって重なり、近場だが泊まりで海に連れて行ってもらった。
初めて連れて行かれた海の大きさに驚いたのを覚えている。
彼等と行ったのはそれが最初で最後となってしまったが、とても楽しくて大好きになった。
遠目でしか見られなかったが同じ名前なのだと教えられた、子供の目にも綺麗だと感じた海の生物。
運良く見る事が出来た、腹の底に響く音を立てて海上に咲いた夜空の大輪の花。
懐かしくも切ないような、数々の思い出。
イルカはアルバムを胸に抱いて、
「・・・もう、大丈夫。見ても悲しくない。寂しくないよ」
呟くように誰に聞かせるともなしに言った。
今は傍にいてくれる人がいる。
寂しいなんて感じさせてくれない程に騒がしくしてくれる人がいる。
アルバムを閉じ、イルカは愛しそうに微笑んで表紙を一撫ですると、本棚の取り易い位置にそれを仕舞った。
暑い陽射しと記憶の底
楽しさ切なさ織り交ぜて
夏空見遣りて思い出す
夏の思い出
夏想い。
−END−
2003.8.1