ひまわりの恋 |
著:桜 卯月 |
薄型の木箱。
中には1枚の写真と、乾燥して干乾びている向日葵の種。
それは大切な、カカシの子供の頃の宝物だった。
写真はカカシが10歳前後の頃の物で、初恋の子に貰った向日葵を1本抱えて笑っている。
これを撮ったのは恩師である今は亡き四代目で、その子に会ったのはそれが最初。
そして乾燥してしまっている種は、その当時、向日葵の種を取るのを手伝ってくれたお礼だと、その子に貰った半分だ。
「ふふふ〜。覚えてる?これ」
見付けたそれを、カカシは上機嫌な笑みをしてイルカに掲げ見せながら問うた。
それはイルカが覚えていると確信している上での問いのように聞こえる。実際、イルカはカカシが手に取った木箱を認識した時点で何か思うところがあったらしく、驚きの顔をしている。
「・・・まだ、持ってたんですか」
驚きの中に少々の呆れと照れが綯い交ぜになった表情で、イルカがカカシの問いを言外に肯定する応えを返した。
「当たり前でーすよ。俺の宝物ですから。それに、何と言っても懐かしい初恋の思い出ですかーらね♪」
カカシの嬉々とした表情で言う内容にイルカは苦虫を潰したような顔になった。
−END−
2004.7.29
「ねぇ、カカシ先生。向日葵から連想する人って誰を思い浮かべる?」
向日葵畑でのDランク任務。
暑さを凌ぐ木陰での休憩中、徐にサクラに問われた内容にカカシは首を傾げた。
ナルトとサスケは水汲み係の為、近くの水場まで出ているのでここにはいない。
「サクラは誰を思い浮かべるんだ?」
「あたしはナルト。黄色の髪とか元気なところとか、似てるでしょ?ね、カカシ先生は?」
カカシはサクラの言いに確かに似ていると同意を返し、そして質問の内容に答えるべく口を開こうとして思い留まった。
久しく思い出す事のなかった昔が思い起こされ、そちらの方が答えに添っていると思ったからである。
「うーん・・・初恋の子・・・かね」
「えっ!?」
あからさまなサクラの驚きにカカシは心外だと言わんばかりに唯一覗かせる右眼を眇め、
「せんせーだってね、そういう時期もあったのー。そんなに意外かぁ〜?」
おどけた調子で抗議した。
「意外というか・・・あたし、カカシ先生なら絶対『イルカ先生』って言いそうだなぁって思ってたから」
彼女の言葉にカカシは「あぁ」と声を洩らし、
「確かにイルカ先生もそんな感じだねぇ。でも、イルカ先生の場合は『向日葵』って言うよりも『太陽』でしょ」
真顔で言い切る。
師の言いにサクラは『クサイわ』と思いつつも、言葉にするかしないかの違いはあれど、確かにそうだと感じている為
否定はしなかった。けれどそれを素直に認めるのは阻まれて、
「・・・カカシ先生。その台詞、少しサムイわよ?」
肩を竦めながらませた物言いで笑って言うと、カカシから「どうせオジンだーよ」と拗ねた言いが返された。
熱を含んだ風が緩く吹き、一瞬の涼を運び込む。
*
「おっかしいな〜・・・確かここに・・・」
カカシは家に帰るなり、久方ぶりに押入れの中の物を引っ張り出していた。
教え子である少女に問われた内容が引き金となって、昔に想いを廻らせたからだ。
忘れていた、大切で切ない思い出がその奥に仕舞ってある。
「ちょっと、カカシさん。何ですかこの部屋は。押入れの整理ですか?」
押入れから出されたのであろう物が一面に散乱している部屋を見て、入る事を躊躇う男が開口一番に言った。
しかし、カカシは聞こえていないのか、一心不乱に作業に取り組んでいる。
男から溜息が出た。
「ったく、仕事終わったらすぐ来いって言うから来たってのに・・・帰るぞ・・・」
「ッッ!!待って待って!!!イルカさんごめん!もうちょっと待っててくれる?」
男の、イルカの小さな声での恨み言にカカシは焦って止めに入る。
焦ったのがいけなかった。
「しまったッ!!」と思った時には遅かった。
積み上げていた物が傾れを起こし、崩れ、散乱していた物が更に散乱する嵌めに至った。
「「あぁ〜〜〜〜・・・・・・」」
カカシとイルカは同時に溜息を零して項垂れる。
ふと、その傾れの跡に視線を向けたカカシは「あ」っと小さな声を洩らした。
「あ・・・あった・・・」
なかなか見付からない探し物に焦り、消沈し、半ば諦めていたそれが、そこにあった。