「ぁ…」
 真っ白い砂浜に面した、これが恐らく島一番と思われる道幅3メートルのメインストリートを、テマリさんの運転する底なし車でのんびりと走っていると、左前方に炎天下をものともせずに歩いているがっしりとした後ろ姿が見えて、思わず声を上げる。
(髭さんだ。まだ歩いてたんだな)
 白い波打ち際をゆっくりと歩きながら、また旨そうに煙草を吸っている。周辺には人や車の気配が一切ない中、髭さんはすぐに俺に気付いてちょいと片手を上げた。俺もすぐに手を振り返す。
(この分なら毎日でも会えそうだな)
 会って何を話すかなんて何一つ思い浮かんでもないのに、不思議と親しみが湧いている。例えまだ二言三言しか会話をしてなくても、こんな天国みたいな場所では隔たりなんていうものは生まれようがないのかもしれない。

「さぁ着いたよ。――オバァ! チヨバァいるー!?」
 港を出てものの一分後。
 ブレーキだけはいやによく効く車が、島の一番外れで突然ドッカンとつんのめるようにして止まると、テマリさんは床に開いた穴に落ちそうになって慌てる俺になど目もくれずに、赤い屋根瓦を白漆喰で塗り固めた平屋建ての木造家屋へと消えていく。
「…えーと、おじゃましま〜す…」
 俺も止まった途端に蒸し風呂と化した車内に耐えきれず、リュックを担ぐと庭に入った。

「――うわぁ…!」
 こぢんまりとした庭は、ゴツゴツした黒い岩を重ねた低い石垣と、真っ赤な花が咲き乱れた生け垣にぐるりと囲まれ、一面に敷き詰められた白い砂が目に眩しい。
 庭に面した板戸は全て戸袋に仕舞われていて、板敷きの廊下に囲まれた二間続きの和室の部屋全てが、向かいの海に向かって一杯に開け放たれている。まるで部屋全体が広い縁側のようだ。
 建物の周囲には名前も知らない何本もの大木が家を守るようにして生い茂っていて、その下一面にとても心地よさそうな大きな日陰を作り出している。そしてそこには客用と思しき、白いプラスチック製の丸テーブルが二つと、お揃いの白い椅子が8客。ただ先客はいないらしく、部屋もテーブル上もすぐ後ろの裏山から響いてくる耳を劈くような蝉の大合唱以外は特に何も聞こえない。
 雲一つ無い真っ青な空を背景にした赤瓦の屋根の中程には、いかついというには程遠い、何とも微笑ましい表情の素朴な獅子の焼き物が据え置かれていて、じっと水平線の向こうを見つめている。
(…なーんか……すっごくいいとこ来ちゃったなー)
 荷物を椅子に置き、縁側と兼用の板間に座って、獅子の焼き物と同じ方角をじっと見つめる。ハイビスカスの生け垣の向こうには、青い空と白い砂、そしてキラキラしている海しか見えない。まだダイビングの講習さえ始まってないのに、何だかもう旅の目的は9割がた達してしまったようで、満ち足りたいい気分だ。
「んーーーっ!」
 大きく伸びをすると、上半身だけ畳にぱったりと仰向けに転がった。そういやテマリさんはどこに行ったんだろう。よく通る声なのに、あれから全然気配がない。
(…おや?)
 ふと何気なく部屋の奥の方に目をやる。と、廊下に一人の少年が立ったままじっとこちらを見ていることに気が付く。年格好からすると、小学生といった感じか。
(ここん家の子だな)
 てっきり島での暮らしはホテルなのだとばかり思っていたけど、島に来てみてそんな大きな建物は無いということは一目見渡しただけで分かった。でもそれで良かったのだ。大正解だ。
 こんなにいい雰囲気の民宿で、しかも地元の家族達のすぐ側で共に日々を過ごせるなんて。
 考えただけでも何だかくすぐったくて嬉しくてワクワクする。
(仲良くなれたらいいなぁ)
 少年の真っ黒な髪はまだ潮焼けというものを知らないらしく、瞳と同じで艶やかに黒光りしている。
「やぁこんにちは。今日からこちらにお世話になる海野っていいます。よろしくね」
「…………」
「君、名前は?」
「…………」
「その…今夏休みなんだよね? 後で近所を案内してくれないかな? 今日初めて島に来たから、まだ全然何も分からないんだ」
「…………」
 けれど少年は小さな口元を一度も動かすことなく、そのまま奥へと消えていった。
(…あぁそっかー、島の子っていかにも純朴そうだもんなぁ。多分ものすごい恥ずかしがり屋なんだろうな)
 でもまた後で誘ってみよう。

(ん?)
 突然奥からドタドタと騒々しい足音が聞こえてきたかと思うと、さっきの子と入れ替わるようにして、廊下にまるで大輪の向日葵を思わせるような金髪の少年が現れた。
「おっ、新しいお客さんだぁ〜。へへへ〜〜オレな、オレな、渦巻ナルトってんだ! なぁ兄ちゃんは?」
「あ…あぁ、俺は海野イルカ」
 さっきの子とは正反対の、余りにあっけらかんとした屈託のなさに少し戸惑う。
「うわ、なんかカッチョいい名前だってばよ! よろしくな、イルカ兄ちゃん!!」
 この子は如何にも元気な島の子という雰囲気だ。表も裏もなくよく陽に焼けているうえ、すぐ目の前にある海を長いこと見つめすぎたせいでそのまま瞳に染まってしまったような、じっと見つめていたら吸い込まれそうなきれいな目をしている。
「なぁなぁ、イルカ兄ちゃん、オレが島の中案内してやろうか?」
「え、あぁ、いいのか? じゃあもう少し涼しくなったらさっきの子も一緒に誘って行こう。あの子、兄ちゃんだろ?」
「ぶはっ、ちがうってばよー。アイツは内地から来てるオバァのシンセキ。んーと、なんだっけ…トウキョウ?から来てんだってさ。夏休みは毎年預けられてんだ。オレもよ、いつもは基地の近くに住んでっけど、なんてったって夏休みだからよ!」
「そうか。よろしくな、ナルト」
「おう!」
 大袈裟に力こぶを作って見せている少年の無邪気さは、もう何年も触れたことのない、自分自身もいつの間にか遠い昔に置き忘れてしまっていた懐かしいものだ。思わず笑みがこぼれる。
 そして(道理でさっきの子のTシャツや半ズボンから出た細い手足は真っ白だった訳だ)と納得した。でもこんな素敵な田舎があるなんて羨ましい。もし俺にこんな田舎があったら、それこそGWでも正月でも連休さえあれば来てるところだ。
(いいなー、夏休みのたびにずっとここで過ごせるなんてなぁ)
 そうこうしているうちに、庭にすっかり見慣れた人影がのっそりと入ってきた。
「あ!?」
「よォ。おめぇさんもここか」
「あ〜! ヒゲ兄ちゃんだ! オッス!!」
「おう、ナルトか。今年も来てるな。サスケもか」
「うん!」
 ヒゲさんはまるで自宅に帰ってきたみたいな何気ない感じで、白いテーブルの上に置いてあった大きな貝殻の中に煙草を押し付けた。そうか、テマリさんの車に乗らなかったのは、一人でゆっくりと煙草が吸いたかったらなんだと合点する。
「あのっ、ここの常連さん、なんですか?」
「んー? …まぁ…、そうなるのかねぇ」
 どっかと椅子に腰を下ろしたヒゲさんは、一瞬遠くを見るような目をして言った。そうか、道理で頼りになるわけだ。
「あのっ、実は俺、これからダイビングの免許取るんです。まだ全然、何も分からないんで、よろしくお願いします!」
「ほォ、そうかい。それにしちゃいいショップ選びしてるじゃねぇか」
「え? ホントですか? 俺、いきなり当たり引いてますかね?!」
「ああ〜、当たりも当たり。大アタリだな」
 その時ヒゲさんの頬が変な感じで片方だけ吊り上がってたように見えたけど、後ろから声が掛かったことで皆一斉にそちらを向く。

「――おぉ〜、猿飛さんかい。いやいやいやいや〜一年はほんに早いわい。まぁ今年もゆっくりしていきなされ。で、そちらさんは……確かクジラさんだったかの?」
 振り返ると、日除け布のついた麦わら帽子を目深に被った老婆が、テマリさんと並んで歩いてきていた。この人が実質的に宿をきりもりしている方…チヨさんなんだろう。早速頭を下げる。
「はい、どうもお世話になります! えと…でも、クジラじゃなくって、イルカです。海野イルカ」
「ひゃひゃひゃ、もちろん知っておるわいのォ。ちょいと挨拶がてらボケてみただけよ。ヒャヒャヒャ…!」
「…ぁ…はぁ…?」
「ふふふ、チヨバァはそんじょそこらの年寄りとは訳がちがうよ。こう見えても御年94才のハイパー婆さんだから、島のことで分からないことがあったら何でも聞きな」
 チヨバァを裏の畑にでも呼びに行っていたらしいテマリさんが、ちょっと誇らしげに紹介する。
「きゅ、94〜?!」
 とてもそんな風には見えない。その顔はここにいる誰よりも深く陽に焼けていて、染みと皺に覆われているものの、足取りは娘さんのそれのようにとてもしっかりしている。滑舌だって俺といい勝負ではないだろうか。この県の人達は健康で長寿だとよく耳にするけれど、この人がその最たる人なのかもしれない。

「じゃあアスマさんは午後から一本いっとく?」
「いや、今日はいい。明日からにする」
 どうやらテマリさんからダイビングを打診されたらしいアスマさんが、大きな手をぶんと一度顔の前で振る。
「相変わらずだねえ」
「あたりめぇよ。んなガツガツ潜るなんざ、性に合わねぇ」
「分かった。じゃあ明日の朝迎えに来る。9時ね。――あそうそう、紅さんなら明日の高速船で来るって」
「あァ?」
「あ`〜〜、オレも紅姉ちゃんなら知ってるぜぇ。あのボン・キュッ・ボンのすっげぇ美人の姉ちゃんだろ?」
 少年がふざけてウフンと言いながらしなを作ってみせる。
「ったくおめぇらは…。オレは何でもねぇって言ってるだろうが。……まぁいい、好きにしな」
「はいよ!」
「でへへへへ〜〜」
 ヒゲさ…もといアスマさんは、髭に覆われた口元をへの字に曲げると、やれやれといった様子でアロハシャツの胸ポケットから煙草とライターを取りだしてテーブルに置いた。アスマさんでも困ることなんてあるんだなと、心の中でこっそり笑う。
「じゃ、イルカさんはガンガンいくよっ! 1分で海に行く用意して! ハイ! 始めッ!」
「なっ、えぇー?!」
 パンパンと勢いよく手を叩かれて、俺は腰掛けていた縁側から尻が飛び上がりそうになった。
 アスマさんとナルトが醸し出すのんびりした和やかな空気に心地よく浸っていたら急転直下、何だか大変事になってきたぞ?!
「うひゃー、イルカ兄ちゃんしごかれるぜぇ〜、シシシ…!」
「え、ウソ?! ホントに?! ちょ、ちょと待って! そんな、1分なんて…!」
 突然のことに混乱して、リュックに駆け寄るや闇雲に引っかき回しだすが、何から手を付けていいか焦っていてよく分からない。
「着替えは向こうのシャワー室を使うとええ」
「あ、はい!」
「Tシャツとタオル、持ったかい!」
「はい!」
「日焼け止め塗っとかねぇと、後で痛い目見るぜぇ」
「はい!」
「兄ちゃんボーシ! ぼうし忘れてるってばよ!」
「あぁそうだ…ありがとな、ナルト」
 俺はこの日のために買った、白いイルカが一匹裾に小さくプリントされた水色のトランクス型の海パンを履くや、言われたものだけ掴むと、転がるようにしてテマリさんの運転する車の隣りに転がり込んだ。
 
 
「うわっ…!」
 またもやドッカンとつんのめるように車が止まって、足元の穴ぼこに落ちそうになったとき、目の前には白ペンキの剥げまくった木造の小さな平屋があった。
(もしかして…ここが…?)
 いやショップって言うくらいだから、鉄筋のそれらしきものを想像していたのだけれど、これはどう見ても民家にしか見えない。
「ちょっと待ってて。器材積み込むから」
 テマリさんは素早く車から降りると、掘っ立て小屋と言っても差し支えないような、器材置き場と思しき場所へと消えていく。
 彼女はオリエンテーションと称して、宿とは正反対の場所にあるこのショップ??に来るまでのほんの2分ほどの間に、車内でよくぞそこまでというくらいの弾丸トークでもって、4泊5日の予定を一気に説明してくれていた。俺はとにかくそれを絶対忘れないようにと必死だったせいで、周囲の景色さえ何一つ覚えていない。
 最後にテマリさんに「質問は?」と聞かれても、そもそも俺自身、一体何が分からないのか分からなくて、「ハァ、いえ特に…」と答えたら、その瞬間講習第一段階目のオリエンテーションは呆気なく終わってしまっていた。
(大丈夫なのかな、こんなので…)
 アスマさんは「当たりだ」と言っていたけれど、本当にその言葉を信じていいんだろうかと、再び不安が頭をもたげてくる。

 テマリさんがドカドカと何やらとんでもない量の大荷物を荷台に積み込むと、車はまたヨタヨタと走り始め、今度は呻りながら細い山道を上り始めた。
「島の反対側の浅瀬でシュノーケリングをするよ。まずは第一段階、軽器材と水に慣れることからだ」
「あ、はい。…でも、俺…」
「全く泳げないってんだろ? なぁに、どんな頑固な金づちだって、嫌でもプッカプカ浮いて、ぐんぐん前に進める便利な道具があるから大丈夫さ」
「――だと…いいんですけど…」
「あぁそれそれっ!今チラッと見えたあの細い横道。あれ入ってくと、展望台に行くから。ここら辺の島が全部見渡せるから、滞在中に一度行ってみな」
「…ぁ、はぃ…」
 俺の心配などものともしてないらしいテマリさんは、「もし余力があったらの話だけど」などと最後に付け加えて、更に俺を不安にさせる。
 でもその標高50mもないような山を越えた途端、目の届く限り一面にいきなり真っ青な海が広がっていて、俺は思わず歓声を上げた。
「うわぁ〜! きれいだなぁ…!」
 真っ直ぐな水平線からはモクモクと真っ白な入道雲が立ち上がっていて、その鮮やかな対比は目に痛いくらいだ。浜辺は民宿の前よりさらにきれいで、ゴミ一つ落ちていない。しかも人影が全くない。こんな映画にしか出てこないような浜辺でこの俺が泳ぐ練習をするなんてと、何だか未だに現実感が湧かない。
(これで少しでも泳げるようになれればいいんだけどな…)
 いよいよ本物の海を目前にしたことで、この一ヶ月間心の底で抱き続けていた不安が一気に湧き上がってくる。これがいわゆる尻込みってヤツなんだってことは嫌と言うほど分かっているけれど、分かっているだけでそれ以外はどうしようもなく不安だ。
「海なんて大きな風呂と思えばいいだろ」とオフィスでコテツ達に言われていた事を思い出したけど、余りにスケールが違いすぎてとても思い込めそうになない。
 さっき港で海に落ちそうになったとき、船頭さんに言われた通りにせず、潔く手を離して海に落ちなかったことで、何だか余計に水が怖くなったような気がしていた。もしあの時素直に手を離して水に浸かっていたら、25年間俺に取り憑いていた憑きものは、その際きれいさっぱり落ちてたんじゃないか? 何だかそんな気がした。
(みっ、水に…入れるかな…)
 

「じゃあまずはウエットスーツを着るところからだな。サイズはこれでいいだろ」
 浜辺に着いたテマリさんは、そんな俺の気持ちなど知るはずもなく、早速俺にレンタル用のくたびれた青い“ウエットスーツ”なるものを寄越した。思っていたより重くて大きい。バンの後ろの扉を一杯に上げて、その下に出来た日陰の下で着始める。
 が。
「うわ、き、キツイ…?!」
 何とか足が入っても、そこから上になかなか上がっていかない。スーパースリムのジーンズだって、もっと簡単に入るぞ?!
「あの、これってサイズが合ってないんじゃ…?」
 思わず聞いてしまう。
「ああ、ウエットってのはそういうもんなのさ。ゆるいとそこから冷たい水が出入りして、体が冷える原因になるからね。でも男の方が女よりは着やすいはずだよ」
 テマリさんは浜辺まで忙しなく器材を運びながら、こともなげに言う。
(そ、そうは言うけど〜)
 本当に、ぜんぜん上がっていかないのだ。力を入れてうんうん引っ張っているせいで、たちまち汗が全身を伝いだす。しかも散々苦労して何とか腰までウェットを上げたところで、テマリさんが急に脇でTシャツと綿のパンツを脱ぎだした。
(?!)
 ドキッとして思わず手が止まる。普段の生活で、女の子が目の前で服を脱ぐなんていう経験は(悲しいかな)全くない。せいぜい映画の中くらいだ。(もちろんエッチなヤツとかでは決して無く!)
 彼女はTシャツの下に、白地に薄紫のシンプルなワンピースの水着を纏っていた。すらりとした脚が白い砂に続いている。
(……えぇっと…その…)
 思わずじーっと見とれ……てしまいそうになるのを、慌てて逸らす。確かにここに来る前にも、海→ダイビング→女の子の水着という連想は、心の片隅にあるにはあった。けれど、こんなにイキナリで間近な一対一だと、正直目のやり場に困ってしまう。
 でも当のテマリさんはそんな俺を尻目に、白い砂を蹴立てて波打ち際へと走って行くや、そのまま何のためらいもなく波飛沫を上げてザンと青い海へと飛び込んだ。そしてざばっと勢いよく立ち上がると、薄紫と白のウエットスーツをいとも簡単につるりと着ている。
「あたしのウエットは水がないと絶対に着れない素材だけど、そっちは水ナシの方が着やすい素材だよ。要は慣れさ」
 上がってきた顔は俺とは正反対で涼しげだ。髪や体から滴った水がキラキラ光りながら落ちている。
 俺はテマリさんの方をなるべく見ないようにして、半ばヤケになって無理矢理ウエットを着込んだ。

「は…ふう〜……ぁ…あっつーー…」
 ようやく首もとまでファスナーを上げきると、高く昇った直射日光がギラギラと照りつける下、ただでさえ蒸し暑かったのに、全身を包むとんでもない暑さにすぐに頭がぼーっとなる。まるで一人サウナ状態だ。ウエットの中はとっくに汗だくで、このままじゃ幾らもしないうちにイルカのボイル煮が出来そうだ、などと変な絵づらをぼんやり思い浮かべる。
「どうだい? いい汗かいたから早速海に入って冷やすってのは?」
「ええ、ええはいッ!」
 とにかく今すぐにでも海に飛び込みたい気分だった。
(一気に飛び込んで、頭っから冷たい水を思いっきり浴びたい!)
 俺はブーツを突っかけるや、前を行くテマリさんを追い越す勢いで、目の前に広がる海へと走る。
 彼女は、こうして水に入ることに尻込みしていた金づち男を、まんまと自主的に海の中へと「おびき出す」ことに成功したのだった。









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