「いらっしゃいませ」

 ご注文は、何になさいますか? ――承知致しました。お待ち下さい。


 お待たせしました。ローズダージリンになります。ごゆっくりどうぞ。

 はい、なんでしょう?
 あぁ、カカシさんとの関係ですか。大学の先輩後輩ですよ。ええ、割とよく聞かれます。
 それが、何か?

 そうですか。何も、ですか。
 自分はカカシ先輩には、当時から本当に世話になっているんですよ。今でもなりっぱなしですから、頭が上がらないです。
 細々ながら続けていた前の店が立ち行かなくなって、借金抱えて畳むことになったときには、この先どうしようかと頭抱えてましたから。…えぇ仰る通りです。趣味が嵩じた店なんてのは、なかなか……ですね。自分には、カカシさんのような経営の才能もなかったですし。家業を継げなかった三男坊の、お恥ずかしい末路ですよ。はは。
 そんな時でしたから、「一緒にやらないか」って声を掛けて貰って救われました。
 先輩は「むしろオレの店を助けて貰えて有難い」なんて言ってくれてるようですけど、普通は見て見ぬふりでしょうね。誰が一度店を潰したような男を、自分のところで使おうと思いますか。もっと使える者が他にごまんといますよ。
 ご恩返し? ええそれはもう、もちろんですよ。できる限りのことはしたいと思ってます。いつ、どんな時でもね。
 実はね、これでも時々、試みてはいるんですよ。まだここ最近の話ですけどね。最近は要領が掴めてきて、少しはまともなアシストが出来るようになってきたようにも思います。まだ自画自賛のレベルですけど。
 たまにはこんな自分でも、先輩の力になれてる気がする時もあるんですよ。他人から見ればほんの些細な、取るに足らないことなのかもしれないですけどね。
 自分は、そういう恩返しもありだと思ってます。ええ、うまくいった時は先輩が結構嬉しそうな顔をしてるんで、わかりますよ。そりゃあ何年も付き合ってますから、ちゃんとわかりますって。

 それが、何か?
 そうですか、別に何も、ですか。
 皆さんそう仰るんですよね。結構ね。

 ゴールは、彼が決めればいいんです。自分は常にいいアシストが出来ていればそれで。
 詳しいことは内緒です。自分から言い出しておいてなんですが、これ以上はノーコメントで。
 いいえ、こればかりは幾らお客様でも、申し訳ありませんが。
 はい、すみません。これは自分の勝手な恩返しですし、万が一にも、ほんの少しでも先輩に迷惑がかかるようなことは出来ませんから。

 お冷や、交換しますね。

 先輩ですか? モテますよ。バレンタインデーの時なんて、お客様に作って差し上げるのと同じくらいの数を貰っているかもしれませんね。
 まぁ今のところ、そういうことには興味ないようですけど?
 あぁすみません、失礼しました。お客様も、先輩のファンでしたか。
 まぁでも自分も、カカシ先輩のファンといえばそうなんでしょうから?
 立場的には、お客様と同じかもしれないですね。

 でも、見ての通りのあの忙しさですから。
 特定の人? さあ、どうでしょうね。
 とにかく、あの忙しさですからね。
 あぁそうだ、あれですよ、「今は花が恋人」なんじゃないですか?
 え? わざとらしい? いや、嘘臭いって…
 はは、そうですか。
 それは、どうも。
 
 え?
 『カカシ店長とは、本当はどういう関係か』って?
 お客様、また最初の話題に戻りましたね。
 大学の先輩後輩ですよ。繰り返すようですが。
 ええ、かなりよく聞かれます。
 日に何回もね。
 中には、今の一連のループをきっちり三周して帰られる方もいらっしゃいますよ。
 本当に、ファンなんでしょうね?
 ちなみに色々とお尋ね下さっても、いまお話しした以外のことをあれこれお話しすることはないと思いますよ。
 ええ、決してね。
 なんならお試しになられてみますか? 自分で良ければ、何回転でもお付き合いしますよ?

 なにせここは、幾らでも時間の潰せるカフェですから。

 喜んで。




          「待つ間も花・番外 ヤマト編」 了


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